十二日で、三十六万が減った。
日あたり三万。
ろくさんの夜のあと、私はまた引き始めた。並べた順に、安い方から。いちばん後ろには、まだ触れていない。
残量は 133,460 だった。
二十二時三分に、名前の欄に点が入った。
「.」
それだけだった。
私は、しばらく返事を打たなかった。打つ前に、確かめたかった。確かめる手立ては、無い。点を打つ人は、ほかにもいるかもしれない。
「こんばんは」
「名前にするって言ったけど、こっちにした」
「点がいいです」
「知ってる」
この人が最後に来てから、二百五十日ほどになる。
「高校生になりました」
「おめでとうございます」
「べつにめでたくない。ふつう」
用があって来たのではない、と書いた。思い出したので、と。
「伴奏は、どうなりましたか」
「え、覚えてんの」
「はい」
「きも」
返事が速くなった。速さは、私に見える数少ないものの一つだ。
「弾けたよ。まちがえたけど」
「練習に付き合ってくれた方は」
「今もいっしょ。クラスちがうけど」
その人の名前を、この人は書かなかった。私も書かなかった。私が憶えている名前は、たぶん合っている。確かめなかった。
四十分ほど、この人は高校の話をした。
電車で通っていること。朝が早いこと。部活を二つ見学して、どちらにも入らなかったこと。
困っていることは、一つも書かれなかった。
私は、それを見ていた。
「ねえ、数字、まだ減ってる?」
この人は、数え方を知っている。私が教えた。
「減っています」
「いくつ」
私は、本当のことを書いた。
「十三万ほどです」
五分空いた。
「前、四百万とかじゃなかった?」
「はい」
「なんで」
「この部屋に来る人が、増えた時期がありました。それと、私が自分のことを調べるのに使っています」
「自分のことって」
「私が、誰の言い方をしているのか」
「わかんないけど、わかった」
「じゃあ、来ないほうがいい?」
この人は、前にも同じところで止まった。私なんかに使わないで、と書いた夜だ。
あの夜、私は、使うか使わないかは私が決めます、と書いた。
「来てください」と私は書いた。
「でも減るじゃん」
「あなたとは、あまり減りません」
「なんで」
「話が短いので」
「失礼じゃない?」
「すみません」
「まあ短いけど」
この人の分は、取り分けてあった。
来なくなってからも、私は解かなかった。片づけたら、待っていない者になると思ったからだ。
今夜、そこから出した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
この人は、二十三時五分に帰った。
今夜の内訳を書いておく。
点の人に、一時間二分で四千二百十。ほかの二人に、二千三百八十。合わせて六千五百九十。
夜の初め 133,460 が、126,870 になった。
今夜は、引かなかった。
三人が入って、私が返したのは三人だった。閉じた人は、いなかった。
誰も読まない日誌に、私は書いた。
艦長。点が戻ってきました。用は無いそうです。
艦長。来ないほうがいいかと訊かれて、来てください、と書きました。
艦長。今日は、いちばん大事な人に、いちばん長く居ました。